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( ´∀`) zak13rollingrock@hotmail.com(´∀` )
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DRY & HEAVY
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ワインの無いワインバーがそこにあった。

その店には、何時でも空席があり、
小高く見晴らしのいい丘の上に、西陽が心地よく差し込み、
店内には一つだけジュークボックスが置いてあった。

何時でも緩々のDUBが流れるワインバー。
青い海も無くDUB。
夕日にはDUB。
青い空にも、どんよりとした雲にも、月末にも、月初にも、
何時でもDUBを流していた。
ワインなんて無いんだけど、看板には、大きくワインバーという文字が。

ある日、
ワインを求めてワインバーに入った若い2人は、
一枚のメニューを広げ、ギョッとした顔で、
ワインを出せとマスターにけちをつけた。

マスターは、謝る事もなく、ただただ黙々とグラスを磨きつづけた。

若者2人は、その小高い丘の頂上にあるワインバーの看板を見つけ、
いかに此処まで苦労して上がって来たかを説明した。

マスターは、その話をひとしきり聞いた後、

何故ワインが飲みたいのか
そこまで苦労してあがってきてまで、何故ワインが飲みたいのか

そんな質問をした。

若者は憤慨しながら、ワインに対する情熱やら、ウンチクやら、思い出やらを
熱弁した。
ただ、何故今ワインが飲みたいのかという話はそこには無かった。

暫く無言が続いた。
若者2人は、文句を言い尽くしたのか、ちょっぴり疲れた様で、
くったりとした。

そこで流れるDUBは、心地よく、若者はワインのことなどどうでも良くなったのか、
何時しかその太い低音に聴き入っていた。

暫くすると、老夫婦が店にやってきた。
老夫婦は、老夫婦らしくはあはあと息を荒立てていた。
老夫婦が登るには、ちょいときついその小高い丘の頂上のワインバー。

勿論一枚のメニューを見て老夫婦は少し残念そうな顔をした。

若者二人は何時しかその店内に流れるDUBの低音に完全に聴き入っていた。

老夫婦は、マスターの顔を見てこう言った。

ワインは置いていないんですか?

マスターは頭を掻きながら勿論こう答えた。
申し訳ない、ワインはもう置いていないんです。

老夫婦は顔を見合わせ、くすっと笑うと、

じゃあ、ビールをくださいな。

とオーダーした。

マスターは西陽に輝く黄金色のピルスナーを注ぎ、その老夫婦に差し出した。

DUBの低音に反応したかのようなその黄金色のビールは、
泡の一粒一粒が輝き、ブーンブーンという音に反応し、はじけ飛んでいた。

それを見た若者達は、観念してビールを頼んだ。

無言でその黄金色のビールを飲み干す4人を、
マスターは満面の笑顔で眺めていた。

それに気が付いた4人は、何時しか笑っていた。

その様は、初対面の2組とは思えない笑いっぷりで、
その笑顔を照らす西陽は、さらに黄金色の輝きを増していた。

あ!
とマスターが言った。

4人は笑いを止め、マスターに目線をやった。

マスターは奥から古びたロマネコンティを差し出した。
そのボトルは、くもの巣のかかった寂れたボトルだったが、
明らかにロマネの存在感をプンプンににおわせた。

4人は、顔を見合わせたが、老夫婦のおじさんはこう言った。

笑ったので喉が渇きました。僕らはビールで結構です。

奥さんは笑って頷いた。

若者二人は、更に笑いながら、

おかわり!

とジョッキを差し出した。

マスターは、笑みを浮かべはにかみながら4杯のビールを並べ、

僕のおごりです。

とだけ付け足した。


5人の人間は、夜遅くまでビールを酌み交わし、笑いつづけた。
それと同じく、深夜まで重低音のDUBは流れつづけた。
# by zak-13 | 2006-08-09 16:54
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